アマチュア無線で広がるエスペラントの世界




黒柳 吉隆


Japana Esperanto-Instituto/Ponto-libroj 5


 前書き

 エスぺラントは「ことば」です。ことばは話してこそ生きてきます。エスペラントを話す人には国境がありません。アマチュア無線にも国境がありません。そこで国境のないエスペラントに、国境のないアマチュア無線が結びつくと、あなたのエスペラントの世界はぐっと広がります。
 著者は、1940年愛知県に生まれ、1962年にエスペラントを独学。1975年電話級(原題4級)アマチュア無線技師、アマチュア無線局開局(コールサインJEZKZP)などによりアマチュア無線を実践。1978年豊田エスペラント会創設。1990年、第1級アマチュア無線技師となる。(財)日本エスペラント学会、世界エスペラント協会、日本アマチュア無線連盟(JARL)、日本エスペラントアマチュア無線クラブ(EKAROJ)各会員としてエスペラントとアマチュア無線の世界で活躍中。


● 居ながらにして世界中の友達と
 アマチュア無線は電波を使って世界中と通信する趣味(ホビー)です。電波で遠距離と通信ができることが証明されたのは、エスペラントが創案された1887年よりも遅く1900年です。短波の電波が遠距離通信に使えることを多くの実験で証明したのは、世界中の「素人(アマチュア)の電波実験者」たちでした。この功績に対して世界は、「アマチュア無線家」に貴重な電波の一部を使うことを許しているのです。
 毎日、エスペラントがアマチュア無線の通信で使われていることをご存知でしょうか。エスペラントは国際放送にも使われていますが、その国際放送よりも多くの時間、世界中のアマチュア無線の仲間によってエスペラントが使われています。

● 日常的にどのように楽しんでいるか、活用しているか
 毎朝の定時交信、とりわけ土曜日、日曜日は世界中の仲間がおしゃべりを楽しんでいます。世界中のエスペラントハム*) が日時を決めて一斉に電波で通信する「エスペラントコンテスト」も年に数回開かれています。
*)ハム:アマチュア無線家のこと
○時間を決めてエスペラントだけでおしゃべり(定時交信)
 毎日、時間と電波の周波数を決めて更新しています。特に、毎朝7時と毎夕10時(いずれも日本時間)には必ずだれかが電波ででてきて、時間が許す限りおしゃべりに加わります。土曜日、日曜日には他の時間帯にも周波数を決めて交信しています。外国のエスペラントハムとおしゃべりできるのも土曜日、日曜日が多いです。日曜日の早朝5時ころには南アメリカの交信が聞こえてきます。少しおいて中央アメリカの仲間も聞こえることがあります。土曜日の午前中から昼にかけて、日本を中心にした東アジアの交信が活発です。日本、中国、シベリア、韓国の仲間が活発に情報交換しています。2週間に一度、(財)日本エスペラント学会(JEI)のエスペラント会館に設置されたクラブ無線局も定期的にこの交信に加わります。このときエスペラント会館を訪れればこの交信を見学することもできるでしょう。また1997年からはゲスト運用者としてクラブ局の責任者の元で、外国ハムも日本のハムもアマチュア無線の免許証を持つ人なら誰でも運用できるようになりました。
 私たちエスペラントハムの電波での通信は国内国外を問わず、いつもすべてエスペラントでしています。いつ外国のエスペラント仲間が加わっても良いようにです。あなたもエスペラントの無線通信に加わって会話を楽しんでください。
○偶然の出会いもエスペラントで(不定期な交信)
 日本とハワイの間で初めてエスペラントで交信に成功したのは1969年です。ハワイからエスペラントで呼び出は毎日毎日相手もないままに続けてきましたが、偶然これを聞いた日本のエスペラントハムが返事をして交信が成功しました。これが太平洋のエスペラントネットワークとしていまでも続いております。
 中国とのエスペラント交信のきっかけは、「中国からの英語によるエスペラント交信の呼びかけ」でした。日本では1960年代から多くのエスペラントハムが交信をしていましたので、これを聞いた日本のエスペラントハムは「エスペラントで」すかさず応答しました。この後、日本の「エスペラントハムクラブ(EKAROJ)」から無線設備一式を中国・杭州市に寄付して、中国初の「エスペラントアマチュア無線クラブ局」が1989年に誕生しています。今でもこの局は活発に電波を出しています。
 モンゴル国は、日本のエスペラントハムが1995年から毎年訪れエスペラントハム局を設置してエスペラント交信をしています。1998年にクラブ局が許可されて通年のエスペラントハム局の聞こえる国になりました。毎年開かれる「モンゴル・エスペラントみどりの学校」とともに、モンゴル国のエスペラント仲間との刺激の場をつくりつつあります。まだエスペラントハムのいない国への援助やサポートを私たち日本のエスペラントハムはし続けています。
 エスペラントを話す人々の数は世界中では多いとはいえず、マシテ、エスペラントでアマチュア無線をする人は多くはありませんが、状態がよければ、電波が地球の裏側にまで届きます。思わぬときによびかけたり、呼びかけられたりするのもうれしいものです。筆者はチリのハムともスペインのハムともエスペラントで交信できたことがあります。そして、「これらの交信は公開で誰にでもきこえますので、日本のハムには、「このように楽しい交信は、エスペラント語によるものである」ことを日本語でもPRします。
○世界中のエスペラントハムが一同に(エスペラントコンクルソ)
 年に数度、世界中のエスペラントハムがお互いに交信数を競い合うコンクール(コンテスト)があります。一番大きいのが、毎年11月の第3週末の土、日曜日に行われます「世界エスペラントコンクルソ」です。全世界から40か国以上、150局以上が電波でエスペラントの交信をします。1交信が1点の成績を競います。これは電波上のお祭りであり、普段はめったに会えない世界中のエスペラントハムと遭遇する最大のチャンスでもあります。こんなところにもエスペラントハムがいるのかと興奮することもあります。
○仲間の会合や「日本大会」、「世界大会」で
 日本大会などの会合で駅での待ち合わせ、ドライブ、ピクニックの時などに、携帯用無線機を持ち歩いています。みんなが同時に聞こえますので携帯電話より重宝に使えます。10台も車を連ねて出かけるドライブでは、どの車にも無線機を積んで出かけるとみんなが共通の話題で道中を楽しめます。山登りでは、別々のルートから登るグループがお互いの状況を交信し、励ましあいながら登り、山の頂上で合流したときはとても楽しいものです。
 毎年行われる「世界エスペラント大会(UK:ウーコー)」では大会会場に「世界大会記念アマチュア無線局」が設置されます。声だけを知っている外国のエスペラントハムに初めて「地上で」会うこともあります。想像していたとおりであったり、全く違っていたり、面白いことです。もちろん、世界大会の無線局を使って自由にエスペラント交信に加わることもできます。「世界エスペラントハム連盟(ILERA)」の分科会も開かれて、各国のエスペラントハムの活動状況を聞くこともできます。
○「世界の海外放送」の情報も
 日ごろから短波の電波を使った、エスペラントで行われている海外放送の情報もつかんでいて、会報のほか、定時交信の時にもこの情報を流しています。海外放送に興味のある片もどうぞご連絡ください。

● どのようにエスペラント活動を広げていけるか
○エスペラント会話の練習に
 「会話の上達には、習うより慣れろ」といわれています。エスペラントも他の言葉より簡単であるとはいえ、なかなか厳しいものです。それに、話す機会がせいぜい週1回の例会がいいところでしょう。しかし、アマチュア無線を使うと毎日エスペラントを使えます。自分の家に居ながらにして、話せるからです。特に、地方で会話の相手に恵まれない人にとっては、とても重宝です。それに、ほとんどの人は、上手な人に面と向かってしまうと気後れがしてなかなか話せないものですが、機械の前では気楽に話せます。ですから、エスペラントを話す練習に好都合です。
○外国人とも自由に交信
 家に居ながら話ができるということは、いろいろな国の人とも話しが出きるということです。話題の多い人なら、どんどん話がはずむでしょう。どんなに長話をしても無線機の電気代だけですみます。ほかのエスペラントの交信の中に割り込んで加わることもできます。すでにアマチュア無線で交信している人でも、言葉のハンディから名前、住所、無線機の種類、アンテナと受信状態の交換(「ラバースタンプ:ゴム印の交信」といいます)に甘んじている場合が多いのですが、エスペラントでは、思いのほか、自由に話がはずみます。「いまは世界大会に参加するのが夢ですが、参加できる日が来ることを楽しみにエスペラントでの交信をしています」と言って熱心に無線交信に出てくるシベリアの若者もいます。冬のマイナス20度のシベリアの話に、「今のオーストラリアの日中の温度がプラスの20度だ」と応じているのを聞いて、中間にいる私たち日本人は笑ってしまいます。
 世界中のアマチュア無線の機械は日本製が主役です。故障した無線機の部品を頼まれたりもします。いつもINTERNACIA(国際的)です。
○電波でコンピュータ通信も
 無線技術やコンピュータ技術に特異なエスペラントハムもたくさんいます。インターネットのようにコンピュータを使った画像通信や文字通信、最近はカラーのスロースキャンテレビの実験などもしています。コンピュータ通信を人工衛星や地上のネットワークを利用して行うこともできます。これらにもエスペラントは使われています。このような通信は電波を使いますので通信費用は無料です。家にいないときでもコンピュータに伝言が入っていたりする、アマチュア無線版の「電子メール」を使っている人もいます。「世界に一つしかない自分のコールサイン」が「電子メール」のアドレスになります。最先端の無線技術やコンピュータの技術について世界の仲間と話し合うこともできます。

●始めるにどうすればよいか
 エスペラントとアマチュア無線との関係には二通りの関わり方があります。1つは既にアマチュア無線の免許を持っている人がエスペラントでも交信をする場合、もう1つは、エスペラントを習いはじめた人が、アマチュア無線を使ってさらにエスペラントの活動領域を広める場合です。ここでは、まず、アマチュア無線をよく知らない人のために、アマチュア無線の説明から始めましょう。面倒でしたら、以下はさっと読んで、ご相談下さい。日本各地に150人以上いる日本エスペラントハムクラブ(EKAROJ)の仲間がお手伝いしますので、遠慮なくご連絡ください。日本大会とか各地のエスペラントの集まりにでも声をかけてください。
○アマチュア無線(ハム)とは
 もっぱら非営利で(つまりアマチュアとして)電波を使って無線通信を行うことです。他の通信の妨害にならないように、「電波法」という法律に従わなければなりません。車を運転する人が「道路交通法」に従うのと同じです。そこで、アマチュア無線を行うには、「電波法」の定める「資格」と「免許」をとることから始めます。
○免許を取るには
 免許には「無線従事者」の資格と「無線局」の免許の両方があります。電波を出すには「電波法」の定める「無線従事者」の資格が必要です。「アマチュア無線従事者」の資格は1級から4級までありますが、まず4級からとりましょう。使える電波の周波数と出力の大きさに少し制約がありますが、4級でも十分楽しめます。
 資格を取るには、全国の主要な都市で1か月に1回くらい行われる国家試験(日本人なら誰でも受けられます)を受けるか、各地で行われる講習会に出席して認定してもらいます。いずれも、「電波法規」と「無線工学」を少し勉強すれば受かります。「無線従事者」の資格(生涯使えます)を得れば、どこかのクラブ局に所属して交信(アマチュア無線で話をすること)ができます。さらに、無線機を用意して申請すれば自分の呼び出し符号(コールサイン)を付けた無線局の免許が得られます。無線局の免許は5年毎に更新する必要があるのと電波利用税(年500円)がかかりますが、世界中であなただけのコールサインですからうれしいですよ。資格を取ったら、電波を出して交信する方法などは、いつでもEKAROJの仲間が親切に相談に乗ります。毎日の定時交信に出ることで、いっさい日本語を使わない交信で少しばかり「しごきます」が、努力すれば、会話の得意なエスペラント仲間になれます。
 どうぞ1日も早くアマチュア無線を使ってエスペラントの話せる仲間となってください。

●エピソード
○太平洋エスペラント会で
 中国・青島市で開かれた太平洋エスペラント会でのことです。ホテルに電話がかかってきました。「Saluton!今、暇あるかい?」聞きなれた声が受話器から聞こえてきました。タイさんであることはすぐわかりました。「今、このホテルに着いた。来ないか。」というので、びっくりしました。無線交信では、「太平洋大会には出られないだろう」と残念がっていた彼が、遥か、杭州市から「28時間もかけて列車で来た」というのです。声はいつも聞いているのに、会うのは初めてなのです。いうまでもなく、会えた喜びで話がはずみました。
○6K94UK
 この珍らしいコールサインは、ソウルで世界大会が開かれたときの臨時のアマチュア無線局のものです。アマチュア無線では希望があれば交信した証明として、自分のコールサインを写真や絵に織り込んでデザインした「交信証」を交換します。珍しい局の交信証は誰も欲しいので、積極的に交信を求めてきます。この時も、韓国内で2,000局、日本の局と1,000局余り、中国、台湾、フィリピンなどともかなりの局と交信しました。韓国と日本のハム仲間がエスペラントでは、大会に出席できない人のために大会の様子を知らせ、エスペラントの話せない人とは、いろいろな言葉を屈指して、エスペラントのこと、世界大会のこと、ソウルの街のことなどを「てんてこまい」で交信したのです。韓国の若いエスペラントハムのデザインによる美しい交信証を手にした人が3,000人を超したのです。

                        お問い合わせ先

 次のような日本と世界のエスペラントアマチュア無線の団体があります。
●世界エスペラントアマチュア無線連盟(ILERA)
  INTERNACIA LIGO DE ESPERANTISTAJ RADIO−AMATOROJ
●日本エスペラントアマチュア無線クラブ(EKAROJ)
  ESPERANTA KLUBO DE AMATORA RADIO EN JAPANIUJO

  ILERAの支部組織として、アジア太平洋地区の「太平洋エスペラントハム連盟」があります。いずれも、日本のEKAROJが窓口になっています。日本国内のEKAROJは年会費4,000円で、毎月会報が発行されています。世界連盟の会報が発行さる都度、こちらの会報も受け取れます。

 「EKAROJ」では、入会者に「エスペラントハムへの招待」という小冊子を用意しています。興味のある方にもお譲りします。送料込みで400円です。事務局にお申し込みください。

 (財)日本エスペラント学会のエスペラント会館内も「エスペラントアマチュア無線局」が設置されています。このクラブ局は1960年に誕生しています。日本各地にもエスペラントのクラブ無線局があります。お問い合わせは下記にお願いします。

「EKAROJ」事務局
〒157-0062東京都世田谷区南烏山3-11、19-207
田中良克(JAIFXZ)TEL03-3305-2771,-0174/FAX03-3305-2773



onto-libroj           ポント双書



1. エスペラントの効用   山崎 静光
2. KS(コーソー)はエスペラント国への入り口だ   田井 久之
3. エスペラントでインターネット   青山 徹
4. エスペラントの現在(いま)−青年国際大会−   木村 護郎
5. アマチュア無線で広がるエスペラントの世界   黒柳 吉隆
ポント双書 5
アマチュア無線で広がるエスペラントの世界
 
1999年10月15日発行
著者 : 黒柳吉隆(くろやなぎ よしたか)
発行者: 藤本達生/編集 ドイ・ヒロカズ
発行所: 財団法人日本エスペラント学会
  〒162-0042 東京都新宿区早稲田町12-3
  振替口座 00130-1-11325
  電話 03-3203-4581
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  メールアドレス esperanto@jei.or.jp
  ホームページ  
  http://www.jei.or.jp/esperanto.html
本双書の冊子版の図書番号:ISBN4-8887-013-6 C0300
(財)日本エスペラント学会に本冊子を注文される場合は、一冊20円でお分けします。
 


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