「漢点字による日エス生物用語集」の完成と公開について

 エスペラントを広める会
  会長 温泉川(ゆのかわ)美喜雄
  会員 横山裕之

[同文のかな点字BESファイル BES.zip]
[同文の漢点字BMTファイル BMT.zip]

 一般的な点字は、「かな」だけで出来ており、6点の点字で構成されています。一方、漢字も点字にしようという動きがあって、6点でなく、8点の点字で漢字を表わす「(8点)漢点字」という点字ができました。漢点字ファイルについては、点字データの全国的なネットワークである電子図書館「サピエ図書館」にも一部収録されています。なお、「サピエ図書館」にある点字ファイルは、視覚障がい者など、登録した人しか、ダウンロードできません。目録だけは、誰でも見ることはできます。
https://www.sapie.or.jp/cgi-bin/CN1WWW

 「(8点)漢点字」とは、大阪府立盲学校教諭だった、故・川上泰一氏が、1969年に考案した「漢点字」のことです。従来の「かな」点字に用いられる6点に、漢字の開始を示す「始点」と終了を示す「終点」の2点(計8点)を加えて漢字を表します。部首の組み合わせで漢字を構成するため、意味を推測しやすいという特徴があります。漢点字では、1マス8点として、1~3マスを使って漢字を点字で表わします。

 今回、私たちは、広高正昭氏が制作した「実用エスペラント小辞典」に、Fotono氏が「かな見出し語」を付けた「逆引き(もどき)実用エスペラント小辞典」を元にして、日本語の訳語の部分を漢点訳した漢点字による用語集を完成させました。
https://www.vastalto.com/jpn/

 この8点式のBMT形式ファイルは、「漢点字による日エス生物用語集」という名前にしましたが、今回、このJEIの「点字データ保管庫」に掲載いたしました。
 漢点字ファイルの私たちの作り方については、まず、シフトJISのテキストファイルを用意します。この中で、かな点字にしたいところは、「ひらがな」を入力し、漢点字にしたいところは、漢字を入力します。
 そして、漢点字ファイルの作成ソフトである「OP-X」をつかって、用意したテキストファイルをインポートして、漢点字ファイルを作成し、BMT形式ファイルで保存します。その後は、自動漢点訳だけでは、不完全のため、校正編集をし、完成とします。

 「OP-X」の編集画面を図1と図2にお示しします。これは、「漢点字による日エス生物用語集」という題名に関するもので、「かな」点字と漢点字が出ています。
 図1には、題名の「かな」点字の墨点字の一行目のところにカーソルが出ています。そして、「テキスト」ボックスには、対応する「かな」の墨字が出ています。
 図2には、題名の漢点字のところにカーソルが出ています。そして、「テキスト」ボックスには、対応する「漢字かな交じり文」の墨字が出ています。
BMT形式ファイルでは、このように、漢字のあるところは、8点の墨点字になっています。

 視覚障がい者で、エスペラントを広める会 会長 温泉川(ゆのかわ)美喜雄氏が、今回の用語集の最初に「はしがき」を書きましたので、その一部を、ご紹介いたします。

 「横山氏が、漢点字変換ソフトで、点字データにしてくれた。それを、私が点字校正をしながら、触読の弱い人でも読めるように、たくさんのマス開けをし、漢点字も読みやすくした。」

 「よこやま しが かんてんじ へんかん そふとで てんじ でーたーに して くれた。
 それを わたしが てんじ こーせいを しながら しょくどくの よわい ひとでも よめるよーに たくさんの ますあけを し かんてんじも よみやすく した。」

 「エス日辞典はあるが、漢点字にも興味を持たれる方に、何かのご参考になればと思って制作をした。」

 「えすにち じてんわ あるが かんてんじにも きょーみを もたれる かたに なにかの ごさんこーに なればと おもって せいさくを した。」

 本人からの直接のご挨拶も紹介いたします。

 「辞書関係では、柴山さんに多大のお世話になりましたし、今回も、私は最初から無理と断っていたくらいです。でも、完成をすると、取りかかって本当によかったなあと思いました。」

 「じしょ かんけいでは しばやまさんに ただいの おせわに なりましたし こんかいも わたしは さいしょから むりと ことわって いたくらいです。
でも かんせいを すると とりかかって よかったなあと おもいました。
おそらく こんご このような かんてんじ まじりの エスにち ようごや じてんは できないと おもいますので とても うれしいです。」

 また、はしがきに書いてある、用語集を作成しようと思った発端となった温泉川氏のご友人の中川氏からのメッセージもご紹介いたします。

 盲学校では、漢字についてあまり学ぶ機会がなかったこともあり、自分には遠い存在のように感じていました。しかし、卒業後、川上泰一先生が作られた漢点字を学んだことで、漢字に興味をもつようになりました。漢字は、われわれ日本人にとってとても身近なものであり、晴眼者とのコミュニケーションにおいてなくてはならないものだということに気づかされました。

 少し前、私はいくつかの漢点訳のデータを手に入れました。これらは、同じエスペラントを広める会の会員である横山さんが漢点訳してくださり、それを会の会長であるユノカワさんが校正し、整えてくださったものです。きっかけは、ユノカワさんとの会話の中で漢点訳のデータのことが話題にのぼり、パソコンにくわしい横山さんに相談したことから始まりました。

 受け取ったすべてのデータがよくできていたので、私は感動し、大いに満足しました。そして、世界が広がったような気がしました。そこで、お二人にはとても感謝しています。これに味をしめた私は、さらなる要望として動植物名のデータをお願いしました。最初のうち、それは範囲が広すぎるし、もとになる資料がないので難しいと言われましたが、さらに検討してくださった結果、広高正昭さんの『エス日用語集』の中から生物関係のみを取り出して、それをもとにデータを作ってみようということになりました。こうしてまた一つ、すばらしいデータを手にすることができました。

 この用語集では、漢点字によりどのような漢字が使われているのかを知ることができ、また、エスペラントでどのような単語が使われているのかも知ることができます。このデータを作るのに関わってくださったすべての方々に心から感謝し、これから大いに活用させていただきたいと思います。そして、私だけではなく、多くの視覚障害者の方々がこのデータを活用して知識を深めていただければと願っています。

 (報告:横山 裕之)